芋焼酎の主産地は旧薩摩藩の鹿児島、大隅、日向(宮崎南部)に広がる。
八月も下旬になると、この地方では一斉にサツマイモの穫り入れが始まり、同時に芋焼酎の仕込みもスタートする。
まさに猫の手も借りたい状況が秋も深くなるまで続く。元来暑い地方であり、土(地柄が米作にも恵まれていなかったせいもあるが)酒の醸造よりも、南の太陽と軟らかいシラスの土地に育てられた大量の芋を使って蒸留することは、日本酒に縁の薄い薩摩の人達にとって、甘藷こそ天の与えた酒造りとの絶妙の出会いであったといえる。
それも特筆すべきは、同じ蒸留酒でも、ウイスキーやコニャックのように年代物として寝かせて珍重するわけではなく、出来立てのものからすぐに風味と味わいを楽しむ点がうれしい。
なにしろ世界中にあるあまたの蒸留酒の中にあって、蒸留をした後、冷たい暗いところで静かに寝かせて「熟成」をさせないで、造るそばから飲んでしまうのは芋焼酎くらいのものである。

芋焼酎も貯蔵はするし、寝かせもするが、それはブランデーやウイスキーのように熟成期間を持つこととは意味が違う。
日本酒もそうだが、杉玉で新酒を知らせるように、焼酎も新酒の風味を第一とする。焼酎、泡盛にも古酒はあるものの、格別に珍重する気風はあまりない。
なぜなら芋焼酎を寝かせて熟成させると、芋焼酎独特の甘みが飛んでしまい、風味が損なわれてしまうからである。

さて芋焼酎の主原料は、先にも述べた通りサツマイモの中でも澱粉質が豊富なコガネセンガンだ。生の芋はみずみずしいだけに傷みも早いので、素早く仕込まなくてはならない。
米麹造りから芋でもろみ造り、一次仕込みや芋の破砕、二次仕込み、蒸留、貯蔵へと矢継ぎ早に作業が続く。一年のうちで最も忙しいときを過ごす。
材料になる芋は、コガネセンガンのほかにマイルドな味を生み出すジョイホワイト、ポリフェノールの多いムラサキマサリ、甘みの強いベニアズマ、きっぱりと軽いベニハヤトなど、種類によっても出来栄えは違ってくる。